知床遊覧船の事故について
知床遊覧船の遭難事故が発生(令和4年4月23日)しました。令和4年4月25日現在の時点で11名の死亡が確認、15名が行方不明とのことです。大変痛ましい事件です。海上交通において事故が発生した場合、被害は重大なものになります。
最近の一般旅客が巻き込まれた船舶に関する事故としては、天竜川下り事故(2011年)があげられます。同事故においては、23名のうち、乗客4名、船頭1名が死亡し、5名が負傷しました。
船舶の遭難事故が発生した場合には、人命救助がなされ、その後、運航者の刑事責任、民事責任、海難の原因究明と再発防止、海技免状の停止等(海難審判)が問題となります。
刑事責任については、船長、安全統括管理者らの業務上過失が問題となりそうです。今回の遊覧船は、旅客不定期航路事業(海上運送法21条)に該当し、同事業に従事する者には、運航基準、安全管理規程などの届出が義務づけられます。運航基準には、発航の基準として、風速、波高、横揺れ、運航継続(中止、反転、避泊)の基準としても同様に風速、波高、横揺れを定める必要があります。このため、まずは、発航の時点、出港後の時点においてこれらの基準を満たしていたのか否かが問題になりそうです。これらの判断主体は、船長です。またこれにとどまらず、安全管理規程には、安全統括管理者に関する記載もあり、モデル規程によると、たとえば、「経営トップ又は安全統括管理者は、運航管理者から船舶の運航を中止する旨の連絡があった場合、それに反する指示をしてはならない。」などという定めもあり、細かに義務と権限が定められています。
今回の事故においては、事業者の安全統括管理者と船長との間でどのようなやりとりがなされたのかも、今後の原因究明、責任の判断においては重要なものとなってきます。また、報道等によりますと、現場の海域は気象の変化が複雑であり、船長の経験は浅く、船舶の船首に事故修理の履歴があったとのことですので、このあたりも原因究明には関係してくるものと思われます。
なお、事業の許可要件として、1名あたり3000万円以上の賠償責任保険の加入が義務づけられており、少なくともこの範囲において損害は賠償されることになります。
運輸安全委員会の調査官も派遣されたようですので、事故原因については今後少しずつ明らかになってくるものと思われます。
弁護士 三好 登志行