危急時遺言を作成させて頂きました
危急時遺言という言葉をご存じでしょうか。民法に定められています。法律上は手続きが決まっていますが、たいへん珍しく、実は当事務所でも実際に作成に携わるのは初めてです。
民法976条1項には、「疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いを以って、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。」と定めています。
今回は、未だ意識ははっきりしており簡単な会話はできるが、体力が衰えて自署ができない方が家族を通じて依頼してこられました。
危急時遺言が有効になるためには、まず「生命の危険が急迫であること」が必要です。ご家族によれば、食事をとることができず、点滴だけで栄養補給しているため、余命数週間とのことですから、この要件は問題ありません。
次に、「証人3名の立会い」が必要になります。遺言作成者の親族などは証人になれませんので、今回は当事務所の弁護士2名と事務員1名が証人になりました。
遺言の具体的な作成方法としては、①証人3名立会いのもとで、遺言者が証人のうちの1名に対して、遺言の趣旨を口授し、②遺言者の発言を受けた者がその内容を筆記し、③筆記した内容を遺言者及び証人に読み聞かせて内容に誤りがないことを確認し、④その後、証人3名が署名・押印をするという手続きが必要です。今回は念のため、遺言者による口授と証人による確認を動画で撮影して正確さの担保としました。
そしさらに裁判所の確認を得ることが必要です。今回のケースでは証人3人が家庭裁判所に呼び出され、危急時遺言作成時の状況について聴取が行われましたが、動画の存在もあって、裁判所の確認は簡単に終わりました。
さていかがでしょう。遺言者の体力がなくなり、署名ができなくなっても、意識さえはっきりしておればまだまだ遺言は諦めることはありません。
弁護士 佐藤健宗