判決主文の言い忘れミスと ヒューマンエラー
裁判官(ちなみに私の所属は兵庫県弁護士会明石支部で、私の地元の裁判所!)のミスが話題になっています。下は新聞の記事の引用です。
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(引用はじめ)
神戸地裁明石支部の裁判官が4月、盗品等有償譲り受け罪に問われた被告の男2人に有罪判決を言い渡した際、罰金を納められない場合に労役を課す「労役場留置」の期間を伝え忘れていたことが12日、神戸地裁などへの取材で分かった。検察側は正確な判決の言い渡しを求めて控訴した。控訴は4月17日付。
(引用終わり)
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神戸地裁の山下郁夫所長のコメントは「このような事態が起きたことは遺憾。二度と起きないよう、裁判官に改めて注意喚起する」とのこと。しかし注意喚起だけで人間のミスがなくなればそんな簡単なことはありません。
私は、関大の社会安全学部で事故調査学を教えていますが、そこでの基本・出発点は「人間はミスをする」ということ。そこで如何にミスを防ぐかと、ミスをしたときにシステム全体に影響が及ばないように防護を構築するかがテーマとなります。それが、近年のヒューマン・ファクター論や安全論の常識です。
ところが、裁判所では、人間のミスを許さない。つまりあってはならないものであり、ミスが起きるのは本人の弛みなど緊張感の欠如として片付けてしまうのです。
その典型例をご紹介します。いわゆる日本航空ニアミス事故についての東京高裁判決です。簡単に概要を説明しますと、管制官の便名言い間違いがニアミス事故を招いたのではないかという問題点です。一審の地裁は無罪。ところが高等裁判所では逆転有罪。その論理がすごい。
「便名の言い間違いや言い間違いに気付かないのは、初歩的な単純なミスであって、その刑事責任を追及することが、なんら特異なこととは思われない」「被告人Hが便名の言い間違いという決してあってはならない誤りを犯しているのに」
この判決の発想では、判決主文を言い間違えた裁判官の刑事責任を追及することは特異なことではないことになります。
本当は、裁判所の勘違いが外に出てしまう(法廷が終わる)までに、裁判所内部の管理体制や組織構築という観点から、再発防止策を考えるべきなのでしょう。
弁護士 佐藤健宗