不貞行為を行った第三者(不倫の相手方)の責任を否定した判決(1) 佐藤健宗
7月24日、不貞行為を行った第三者(不倫の相手方)の責任を否定する判決をもらいました。極めて珍しい判決です。この案件は、妻が第三者と不貞行為を行ったとして、夫が第三者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求していたという裁判です。事実関係に争いはなく、こちらは不貞行為の存在は認めています。
この問題については著名なリーディングケースとして、平成8年3月26日に言渡された最高裁の判決があります。その要旨は、「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係が園当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である」というものです。よくわからないかも知れません。言い直すと、「破綻していない婚姻関係の存在を知りまたは知りうべき場合(故意・過失)には、特別の事情がない限り、不法行為責任(不貞を行った夫婦の一方と共同不法行為)を負担する」という結論です。この最高裁やその後の下級審判決の立場を前提にする限り、当方の不法行為責任が認められて当然です。
ところが学説に目を転じると、不倫の相手方の不法行為責任を否定する研究者が多数になっています。その例をいくつか紹介します。
○貞操要求権は、対人的・相対的権利であり、その侵害は第三者による債権侵害に準じて考えれば足りるから、暴力や詐欺・脅迫など違法手段によって強制的・半強制的に不貞行為を実行させた第三者に限って不法行為責任を認めるべきである(津島一郎氏)。
○非嫡出子からの強制認知に対する抑圧機能を持つという弊害が存することなどを理由に、いかなる場合にも第三者に不法行為責任を認めるべきでない(水野紀子氏)。
さて、どちらの方が説得力があるでしょうか。しばらくこの問題でブログで書き続けたいと思います。
佐藤健宗