医療事故の調査制度について 佐藤健宗
私は信楽高原鉄道の事故以来、事故の調査制度に強い関心を持ってきました。その過程で、衆議院の国土交通委員会で参考人として陳述したり、消費者庁の「事故調査制度のあり方検討会」の委員として議論に参画したりしてきました。大学でも事故調査を教えています。もちろん医療事故の調査制度にも関心を持ち、少しでも早く医療事故のための専門的な調査システムを確立すべきだと考えてきました。
そもそもの話になりますが、医療分野では航空や鉄道と比較にならない程の事故が起きているにもかかわらず、これまで国による調査制度がありませんでした。その一方で、福島県立大野病院事件などが起こり、調査と捜査(刑事責任の追及)の緊張関係が飽和状態に達しつつありました。
医療分野で公的な事故調査制度が必要であることは、誰も否定しません。ところがなかなか法案としてはまとまりません。その最大の原因は、医師の側から捜査機関に対する不信感が強く、調査機関から捜査機関に通報がなされるという法案には絶対に賛成できないとの意見が出されてきたためです。そのため、いったん厚労省がまとめた「大綱」はずっと店ざらしにされたままでした。
この度、ようやく厚労省内の検討部会で、「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」と題する文書がとりまとめられ、公表されました。サイトは以下のとおです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000339xk-att/2r98520000033a1k.pdf
このとりまとめを読むと、医療事故調査の仕組みは次のようになるようです。
・医療行為に関連する死亡事故が発生
↓
・当該医療機関が院内調査を行う
↓
・遺族又は医療機関から調査の申請があった場合
↓
・独立性・中立性・透明性・公正性・専門性を有する民間の第三者機関が調査を行う
・第三者機関から警察には通報は行わない
という流れになるようです。今回のとりまとめならば医療機関の側も強く反対はないでしょうから、いよいよ医療事故の分野にも事故調査制度ができることになりそうです。
弁護士 佐藤健宗(兵庫県弁護士会明石支部)