法人格否認の法理 野口敦子
2013/06/18
先日、約1年間続いた売買代金返還請求訴訟が無事和解成立となりました。この事件は、同業法人同士でトラックを売買しましたが、その後合意解約し、買主である当方の依頼者がトラックを返還したものの、売主である相手方Aが売買代金を返還しないという事案でした。
相手方は、合意解約直後に、A代表者の妻が代表者である別法人Bを新たに設立し、BにA名義の土地、建物、車両等を次々に移していきました。AとBは、業務形態等、実質的には全く同一であり、Aの事業をBという商号に変えて継続しているものでした。Aの主要な財産はBに移転され、Aに対する売買代金返還請求をして、勝訴しても差し押さえるべき財産がない状況でした。
このケースで当事務所は、法人格否認の法理の適用を主張し、これについては相手方もほぼ認める形で和解が成立しました。
法人格否認の法理とは、法人格が法律の適用を回避するために濫用されるような場合や法人格が全くの形骸に過ぎない場合には、当該特定事案の当事者間の法律関係についてのみ、一時的に法人格を否認するというものです。すなわち、本来Aにしかできない売買代金返還請求を、Aが返還義務及びその強制執行を免れるために設立されたBに対してもなしうるという法理です。
なお、このケースでは、売買代金返還請求訴訟に先立ち、Bに対して不動産仮差押命令申立てをしていました。裁判所は、法人格否認の法理を認め、A名義からB名義に移転した不動産の仮差押命令を発令しました。このため、本訴での和解を有利に進めることができました。
弁護士 野口敦子(兵庫県弁護士会明石支部)